
Gemini
雨上がりの夜空に浮かぶ「大」の文字。
京都の夏が静かに終わっていく。
2025年8月16日、夜。京都の街は、一日続いた熱気を冷ますかのように、静かな小雨に包まれていました。夏の終わりを告げる五山の送り火が、今宵、行われます。
午後8時の点火を前に、ぱらぱらと落ちてきた雨粒に、誰もが空を見上げました。このまま雨脚が強まるのだろうか。そんな心配が心によぎります。しかし、街の願いが届いたかのように、雨は勢いを増すことなく、むしろ空気を清めていくようでした。
そして、約束の時刻。東山の如意ヶ嶽に、ひとつ、またひとつと橙色の点が灯り始めます。やがてそれらは線となり、夜空にくっきりと「大」の文字を描き出しました。雨に洗われた澄んだ空気のせいか、その灯火はいつもより力強く、そして凛として見えます。
京都の素晴らしいことのひとつは、この送り火を見るために、必ずしも特別な場所へ行く必要がないことかもしれません。鴨川のほとりで佇む人、ビルの窓からそっと見守る人、あるいは自宅のベランダから静かに手を合わせる人。街のあちこちで、人々はそれぞれの場所から、それぞれの思いを胸に、夜空に浮かぶ火の文字を見上げています。
それは、ご先祖様の霊をお送りするという本来の意味合いと共に、この街に暮らす私たちの心に深く根付いた、季節の節目を告げる光景です。
力強かった灯火が消え、再び闇を取り戻した山々を見つめていると、肌をなでる夜風に、ほんの少しだけ秋の気配が混じっていることに気づきます。
五山の送り火と共に、京都の夏が終わっていく。
また来年、この静かで力強い灯火に会える日まで。
街はゆっくりと、次の季節へと移ろいでいきます。

炭拾い / 送り火の翌朝に続く、静かな祈り。
送り火の翌日に行われる「炭拾い」。それは、この地に古くから続く、静かな習わしです。
人々は護摩木の燃え残りである消し炭を、ひとつひとつ丁寧に拾い集めていきます。お盆にご先祖様の霊をお送りした聖なる火のかけら。これを持ち帰り、半紙に包んで家の玄関に吊るしておくと、一年間、厄除けとなり、家族を災いから守ってくれると信じられています。


